共創空間

『君たちはどう生きるか』1

100万部!『君たちはどう生きるか』旋風のワケ

漫画家・羽賀翔一氏に聞く試行錯誤と葛藤

日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/122800774/より

『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス刊)がついに100万部に達した。構想5年、企画から発売まで約2年。大ヒットに至るまでの試行錯誤と葛藤を、漫画家の羽賀翔一氏に聞いた。

1月5日、『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス刊)が発売から4カ月あまりで100万部に達した。「不作の年」と言われた2017年の出版業界で、数少ない大ヒットの1つである。

 1937年の出版以来、多くの人に読み継がれてきた吉野源三郎氏の小説『君たちはどう生きるか』。いじめや貧困、格差、教養…。昔も今も変わらないテーマに、主人公のコペル君と叔父さんは真摯に向き合い続ける。

 時代を超えた名著だが、今、ミリオンセラーとなった1つの理由は、原作を忠実に漫画化するのではなく、意訳しながら現代向けに「翻訳」したことだろう。冒頭の印象的なシーンを含め、原作と漫画には場面設定や章構成に違いが見られる。

 企画の仕掛け人はマガジンハウス執行役員の鉄尾周一氏、担当編集者は「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」「嫌われる勇気」の編集者として知られる柿内芳文氏と、「宇宙兄弟」「ドラゴン桜」を大ヒットさせたコルク代表の佐渡島庸平氏。いずれも名物編集者だ。

 構想5年、企画から発売まで約2年。個性的な編集者に囲まれて、漫画家・羽賀翔一氏はこの物語をどう自分の作品として描いていったのか。その試行錯誤を聞いた。

(聞き手は日野 なおみ、島津 翔

企画から発売まで2年。漫画としては異例の長期戦になりました。

 そうですね…。版元であるマガジンハウスの鉄尾周一さんからは「どうなってる?」と定期的に声を掛けていただいたのですが、なかなか自分の中で消化できず…。ご迷惑をお掛けしました。

それは、原作があったからこそ時間が掛かった?

 担当編集者である柿内芳文さんと常に確認していたのは、「原作を越えよう」「原作より面白いものを作ろう」ということでした。単なる名作のコミカライズではなく、僕にしか描けないものを描こうと。

 原作があってストーリーが決まっているのだから、漫画にするのなんて簡単だろう、と思われる方もいるかもしれません。でも、漫画を描くってことは、自分の中にある記憶や経験、感情の引き出しを開けなければなりません。その過程を経ないと、キャラクターが動き出さない。

漫画家の羽賀翔一氏。原作を読んで「キャラクラーが動いていると感じた」という

原作を読んだ感想は? それこそ、キャラクターが動いていたんです。

そのまま漫画にしても面白さは生まれない

 2015年の春にお話を頂いて、コルクの佐渡島庸平さんに岩波文庫の『君たちはどう生きるか』を貸してもらいました。恥ずかしながら、僕はそれまでこの本を読んだことがなかった。強いメッセージがそのままタイトルになった本なので、やや説教臭い本なのかなと思って読み始めました。でも、違っていた。「コペル君」というあだ名が付けたシーンあたりからキャラクターがどんどん立ち上がっていって、非常に物語として面白かった。

 自分がこれまで描いてきた漫画は、どちらかと言えば日常にある瑣末な出来事から本質的なものを掘っていくようなアプローチでした。この本もドラマチックな出来事や敵と戦うようなストーリー性はない。おこがましい言い方かもしれませんが、感性やアプローチが自分と非常に似ている、と思ったんです。原作付きの漫画を描いたことはありませんでしたが、「もしかしたら自分に描けるかもしれない」と。  ただし、いざ描こうと思ったら思いの外、時間がかかってしまいました…。やっぱり最初は我を出そうという気持ちがあった。小説をそのまま漫画にしても「漫画としての面白さ」は生まれない。どの程度、原作を守ってどの程度、変えるのか。そのバランスを見極めるまでに非常に時間が掛かりました。  その1つが、コペル君と叔父さんの距離感です。  原作をそのまま漫画にすると、どうしても上から目線になってしまうんです。だから叔父さんというコペル君のメンター役を担うキャラクターも葛藤したり成長したりしてほしかった。上から下ではなく、常に2人が「バディ」のような距離感でいるのが現代らしさなんじゃないかと。

漫画の中では叔父さんもまた、悩んでいます。

 同じ目線で前に進んでいくという構成にしたかったんです。例えば、友達の秘密を知って、コペル君と叔父さんがグングン歩く印象的なシーンがあります。このシーンも、原作ではコペル君だけが1人で歩いている。この2人のシーンを描いた時、編集者の柿内さんに、「羽賀さんなりの2人の関係性が見えてきましたね」と感想を頂いて、ようやく自分の中でも2人の関係性が見えたというのが実情です。

 叔父さんに関しては、色んなパターンを描きました。血縁関係がない赤の他人の設定や、刑務所から出てきたばかりの世捨て人のような設定まで…。

それはだいぶ印象が違うhttp://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/122800774/>続きを読む

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