共創空間

 ニクソンの大いなる撤退

『隷属なき道』(続)

 

第4章 ニクソンの大いなる撤退

・ニクソンは1969年には、すべての貧困家庭に収入を保護する法律を成立させようとしていた。例えば家庭には、1600ドル(2016年の貨幣化に換算すると訳1万ドル)」の収入を保証するものだった。

・しかし計画公表の日に、一部の保守派から150年前の英国スピームランド制度の報告書が大統領に手渡された。ベーシックインカムを受給する失業者に労働省に登録する義務を課した。しかし貧困を撲滅すると同時に失業者の怠惰さと戦うというニクソンのトリックは「貧困層は怠け者」という通説を印象付けることになった。

・18世紀末に実施されたスピームランド制度は「勤勉ながら貧しい男性とその家族」の所得を最低限の生活ができる水準まで補填するものだった。しかし1834年英国の王立委員会はスピームランド制度について「大失敗だった」と結論付け、人口の激増や賃金カット、不道徳な行為を招き、労働者階級が劣化したと非難した。

・マルクスですら、30年後に『資本論』の中で、スピームランド制度を非難する論拠としてこの王立委員会の報告書を利用している。マルクスという並外れた後ろ盾を得た結果、左派から右派まで、この制度を歴史の失敗とみなすようになった。

・しかし王立委員会の報告書は捏造されたものだった。60年代から70年代、歴史家らは報告書を見直した。そしてほうこくの大半がデータの収集前に書かれたものであることを突き止めた。聞き取りの対象者には、受益者がほとんど含まれていなかった。

・スピームランド制度の通説は生き延び、ジョージ・ギルダーのベストセラー『富と貧困』に反映される。ギルダーは、貧困は怠惰と悪徳に根差す道徳的問題だと主張し、その論はレーガン大統領に何度も引用された。その後社会保障制度が後退したアメリカでは子供の貧困は、1964年のレベルにまで戻ってしまった。

・貧困者を区別することは無益だ。その区別の元となっているのは、40年ほど前にもう少しで払拭できるところだった大きな誤解である。ニクソンのレトリックとしても用いられたその誤解とは、「貧困のない生活は働いて手に入れるべき特権であり、誰もが得られる権利ではない」というものだ。

― ロバート・ケネディー ―

国民総生産(GNP)はあらゆるものを測定する。人生を価値あるものにするものを除けば。

『隷属なき道』p102~104より引用

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