意識のちから

「フィルター」が創る世界(2-1)

脳は自ら再配線する―その1

 先回までで、「脳は意識で操られる」ゆえに「感情は自己責任‼」ということを認識できました。

では、どのように操られているのか?

『SUPER BRAIN』(ディーパック・チョプラ著)より

 ジャン=ジャック・ルソーは1700年代半ばに、自然はよどむことがなく、機械のようなものでなく、生き生きとした動的存在である、と論じた。さらには、脳は経験に応じて絶えず再構築される、と提唱していた。その趣旨と目的に応じて変化するための適応能力が備わっているとする彼の主張は、脳の柔軟性と可塑性(環境に応じて柔軟に変化する)を認めた最初の宣言だったのかもしれない。

 20世紀の半ば、米国人心理学者カール・s・ラシュレーによって、その証拠が示された。ラシュレーは、ラットを訓練した後、そのラットの大脳皮質を少しずつ除去していく実験を行った。大脳皮質の90%を除去してもラットは以前の学習を記憶しており、迷路内の餌を探し出すことに成功したのだ。ラットは五感に基づいて多種多様なシナプスをたくさんに生み出していたのだ、つまりラットは迷路内の餌に至る道筋をただ「見て」知っていたわけではなく、臭覚、触覚も働かせていたのだ。大脳皮質が少しずつ除去されたとき、脳は新たな突起(軸索)を発芽させ、別の感覚を生かすために新しいシナプスを形成し、ごくわずかでも残された手がかりがあれば利用したと考えられる。

 さらに、英国の神経科医ジョン・ローバーの「脳は本当に必要か?」という論文から、水頭症患者(脳に脳脊髄液が加療にたまる病気)の例がある。シェフィールド大学の同僚から紹介された、頭部肥大化した青年は、大学の数学科を首席で卒業。IQは126であった。一見して水頭症の症状は認められず普通の生活を送っていた。しかし、CTスキャンでは頭蓋骨の内側を厚さ役1ミリの層を成した脳細胞が覆っており、残りのスペースは脳脊髄液で満たされていた。これは何とも驚くべき障害であるが、その後もローバーは研究を続行し、600件を超える症例を記録していった。重症度の高い10%の患者では脳室内の95%が髄液で満ちていた。そのうちの半数に重度の精神遅滞がみられたが、残りの半数はIQ100をこえていた。これらの結果は、脳はいかに無駄が多いか―いかに同じ機能が重複しているか―を示すポジティブな証拠であるとする意見も聞かれた。いまだに全貌は謎に包まれているが、ヨーロッパが示した数々の症例は、意識の力で脳―劇的に縮小した脳ではあるけれど―に命令を実行させた極端な例と言えないだろうか。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者 マイケル・メルゼニッチらは、指を使って餌を探し出すように訓練された7匹のサルを用いて実験をした。バナナ風味の小さな固形の餌をプラスチック板で仕切られた小さな穴の底に置く、広口の浅い穴もあれば、細口の深い穴もある。サルが餌をとりだそうとするとき、当然ながら細口の深い穴の方は失敗しやすい。しかし、時間が経つにつれ、すべてのサルがすっかり上達し、最終的に毎回成功するようになった。

 その上で彼らは、体性感覚皮質という指の動きを調節する特定の脳領域のCT画像を撮った。サルの脳が学習の経験により実際に変化することを示せるのではないかと期待してのことだ。期待は的中した。脳は、将来より多くの餌を発見する確率を高めるべく再配線されていた。体性感覚皮質が他の複数の脳領域と新に相互作用し始め、再配線されることで脳に新たな回路が生み出されたとメルゼニッチは論じた。共に発火するニューロンは共に配線する。このような神経可塑性は日常生活にも当てはまる。新しいことを意図的に学び始めたり、なじみのことに新しい方法で挑んだりすれば、脳の再配線が効率よく行われ脳の力は向上されるということだ。身体を鍛えれば筋肉が築かれるのと同じように、こころ(意識)を鍛えれば新たなシナプスが生みだされ、神経ネットワークが強化される。

 このことは、特に年齢を重ねるごとに、脳内ネットワークの領域がひろがり、特に老齢に入ってからはそれが著しく顕れ、どんどんものごとの理解力、洞察力が高まっているのを実感しています。そのことが自分の世界をますます広げて行くため、日々配線を新たにしながら構築し直すことが面白くてなりません。歳をとることがこんなに楽しいとは想像できませんでした。“若者よ、老いることを怖がることなかれ”と声を大にして言いたいです。もう一つ、体性感覚皮質について、思い当たることがあります。

 私は書くために、その2倍ほどの時間を手仕事で指を使うことに心掛けています。その理由は経験上、直感や閃きを高められるからです。もうすぐ70歳も中盤に入ろうとしている私ですが、裸眼で針に糸を通します。それで気づいたことなのですが、実は眼で糸通しを行っているというよりも、指で糸通しをしていることに気づいたのです。ですから少々暗くなってからでも結構糸通しが面倒ではありません。どのようにしているかというと、指の腹で糸を誘導し、針の孔に当たったところで、穴の裏側から指の腹で糸を導いて引っ張り出すというやり方です。ちょっと解り難いかもしれませんが、私はこれを知らないうちに習得し、今では当たり前になっていて気づかなかったのです。ミシンの針にも同じ方法で糸通しを行います。また、指を使うことが目的なので、縫われた古着の糸を解く作業は夜TVを見ながらでも手探りで縫い目を見つけて苦も無く作業をしています。書く量が増えると縫い物も増えます。もちろんそのアイデアを考えることも楽しみの一つです。多分これらは皆、脳の配線の新構築に寄与しているということをディーパック博士から学んだことはありがたいことです。更に再構築を楽しもうと思います。誰もがこうして気づかないけれど独自のスキルを知らずしらずの間に、積み上げてきているのではないでしょうか。そこに焦点を当てることも自己の飛躍に役立つかもしれませんね。

Comment

野宮

針仕事以外でまた何か発見したらUPして下さい。
このことをヒントに、私も何か新しいことの発見や、習得に役立つよう
脳(意識)トレしてみます。

返信
myosho

きっと、気づかないスキルがあるはず。見つかると面白いですよね。私もまた気づいたら報告します。ありがとうございました。

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