日本的『理想と現実の乖離』

 

私たち日本人は常識や通念に支配されやすいことについて考えてきました。
人として誕生した時から、すべての人は家族の影響を受けて育ちます。

時には、その家族の影響に抗う子供もいますが、大抵はある年齢まで(12歳ごろ)は、無意識に親の価値観・世界観を吸収し、それを基準にした思考や行動が目立ちます。

小学校の教員はよく「子供を見れば親が想像できる」と言いますが、まさしくこのことが原因でしょう。

その後の18歳ごろまでに、自己を客観的に観る能力が備わり、親との軋轢など、モラトリアムな青年時代を経て、アイデンティティーが確立される頃に、将来の展望もイメージできて、自己の行くべき道が見つかる。

多くはこのような成長段階を辿ると、心理学者エリクソンは言っています。
そして、この段階において、早期に自己確立が完了した場合、親の価値観に沿って自己の未来の構築に向かうと言われます。

そうでなくても、「三つ子の魂100まで」という諺通り、多くの場合、親の価値観を引きずりながら、自分が親になったときには、親と同じことを子供に言っていることに気づく人も多いことでしょう。

このように大方、親の価値観は遺伝子とともに受け継がれるものと考えたほうが解りやすいかもしれません。

日本においてはモラトリアムを、ただの現実逃避と捉えることが多いようですが、最近では、「大学生活=モラトリアム期間」を卒業したらモラトリアムからの脱却は当たり前という時代から、30歳前後まで自己確立ができないでいる人や、更にはモラトリアム人生を肯定し、積極的にモラトリアムに生きることを選択している若者も増えているようなのです。

そんな若者を大人たちは「いつまでも大人になり切れない!」と批判的な目で見つめています。

そんな大人たちに若新 雄純(わかしん・ゆうじゅん)さんは、こんな提言ををしています。

人生100年「一生モラトリアム」の進め

“大人になれない”のは悪いこと?

若新さんは「そもそもモラトリアムは悪いことじゃない。むしろこれからの時代は精神的にモラトリアムを続ける人が増えることが、社会にとって望ましい」と主張します。

若新 雄純(わかしん・ゆうじゅん)
慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役

福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。専門はコミュニケーション論。人・組織・社会における創造的な活動を模索する研究者・プロデューサーとして、「NEET株式会社」や「鯖江市役所JK課」など実験的な政策やプロジェクトを多数企画・実施中。著書に『創造的脱力』(光文社新書)がある。
若新ワールド
http://wakashin.com/

世間一般では「モラトリアムは早く終えたほうがいい」と考えられているので、それが長く続くことを快く思わない人は多いでしょう。でも、社会の変化が激しく、寿命も伸びて、今の大学生の定年は75歳くらいになるだろうと予想される今、「一生モラトリアム」は時代に必要とされる考え方になると思っています。

もともとは金融用語で、「借金返済の猶予期間」という意味です。「借金の返済期限が来たけれど、返せないならモラトリアムをあげるよ」というふうに使われていた言葉です。この金融用語を転用し、エリクソンという心理学者が、「大人になるための準備の猶予期間」という意味で「心理社会的モラトリアム」という概念を提唱しました。1959年のことです。もともとは「借金の猶予」だし、「モラトリアム」という言葉に対して「大人になり切れない=いつまでも半人前」のようにネガティブな印象を持つ人が多いですが、エリクソンはこの言葉を、もっと前向きなものとして掲げていました。

モラトリアムは、人間が健全に成長するためにとても重要な期間だとエリクソンは言っています。自分から見た自分像と、社会から見た自分への期待や役割がうまく一致することを、「アイデンティティ(自己同一性)が確立する」と言います。つまり、一人前の大人になるということは、単に仕事の能力や経験が身につくということではなく、社会の中における自分の立ち位置や存在意義を見出してうまく成立させる、ということだと思います。

モラトリアムの成功は、早く脱することではありません。その期間を、十分に活かして充実させる、ということだと思います。現代は、働き方や暮らし方も多様になり、社会の中で自分を確立する、ということが簡単ではありません。そして、早く確立できればいい、というものでもありません。

モラトリアム期間の意義は、時代と共に変わってきています。経済成長期には、一人前になるには「技能継承」が必要でした。つまり、親方や先生と呼ばれる人に弟子入りし、その技術や能力を上から継承することで、自分も一人前になれました。だから、大事な期間だけど、早く終えたい。

ところが、現代のように、社会のシステムが短く細かく変化するようになると、上の世代のモデルや技能をインストールしても、それでうまくいくとは限りません。ITサービスなどは代表例です。常に新しいものを模索し続けて、その時代に合った価値を自分たちで開拓・創造しないといけません。

つまり、モラトリアム期間に求められるものが、「上から教えてもらう」から「自分たちで探して創る」に大きく変わってきたのです。

そして、一人前になったつもりで「自分たちで探して創る」を辞めてしまうと、すぐに時代に取り残されてしまう。つまり、開拓と創造をし続けるために、一生ずっと半人前のつもりで模索する必要があるのです。

幸い、現代の日本は、ちょっと仕事を休んだり、学生に戻ったりしても、すぐに食べられなくなって死ぬ、というほど厳しい環境ではありません。一生、新しいモノやコトにチャレンジし続けることもできるし、納得いくまで何度も勉強し、模索し続けることができるのです。むしろそうしないと、社会の中での自分の価値を見い出せなくなってしまうのだと思います。

納得したつもりで就職しても、やってみたら「なんか違うな」というのはよくあると思うんです。社会人としてのアイデンティティは、すぐには確立しません。これは、現代においては、お金と同等か、それ以上の問題だと思うんです。そしたら、半人前であることを恥ずかしく思わず、もう一度学び直したり、新しい道を模索することが必要です。

同じところで長年耐えて修行することが美徳になっていますが、それは技術継承が重要だった時代の話です。自分の納得をつくりだせない人生は、悲惨です。

日本でも大学入学の時期はもっと遅くなってもいいし、企業も20代後半くらいまでは新卒枠を広げたほうがいいと思うのですが、なかなか環境は変わらないと思うので、まずは自分の中で「精神的モラトリアム」を続けることをおすすめします。

すべての人が、「一生モラトリアム」に生きなくてもいいと思います。早い段階で間違いなくコレだという職に就いた人や、競争社会で常に戦って勝ち続けたい人は、その道を選べばいい。精神的なモラトリアム期間の設定は自由なので、納得すれば早く終えることもできるし、ずっと続けてもいい。それが現代社会のいいところだと思います。

https://president.jp/articles/-/22047

とても前向きな提言にシンパシーを感じました。

ところが日本では昔から「理想と現実」という概念があり、常に新しい考え方に対して、「理想だけでは飯は食えない」という批判が常です。

そればかりか、時代の流れをそれなりにキャッチしながら、言葉では新しい考えをどこかの情報からコピーし、さも自分の考えのように伝え、「歳を経ても頭は衰えていないなー」と感じさせる人もいます。ところがどっこい、そんな人の生活の中身はというと、古い体質を維持したまま家族制度の家父長システムを駆使し、女子供を支配しまくっている人が多いことに驚きと矛盾を感じざるを得ません。

そもそも、理想と現実はいつでも乖離している、という世界で生きている人たちです。

それゆえに、自己の矛盾もあって当たり前、許容範囲!人間とは、世界とは矛盾に満ちているもの!と豪語する。

つまり、理想を現実化するエネルギーや創造性、行動性は持ち合わせないというのが昭和のおじさま族です。

ウクライナを侵攻したロシアの価値観は、「ウクライナはもともとロシア民族の住むロシア文化の範囲に入っていて、ヨーロッパの民主主義の地域ではない」ということが原因のようです。

そんな価値観、主義主張の違いが戦争に発展していることを考えれば、古い家父長家族制度を押し付け、女性を上からコントロールしようとすることが如何に間違っているかが見えるはずと思うのですが、彼らはロシアを批判しながら規模が異なれど自分が同じことをしていることに気づかない。

夫婦別姓問題、LGBTQ同性婚の問題が国会で審議に上がっていましたが、岸田首相による「家族観が変わってしまう恐れ」発言がありました。多様性を進めようといいながら、この発言が矛盾していることに気づいていないのです。

岸田首相 夫婦別姓や同性婚「改正で家族観 価値観 社会が変わってしまう」

岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを示しました。

岸田総理大臣は、2月1日の衆議院予算委員会で、児童手当をめぐって自民党が民主党政権時代に所得制限の導入を主張したことについて「この10年の間に子ども・子育て政策のニーズ自体も大きく変化し、より経済的な支援を重視してもらいたいと、求められる政策も変わってきた」と述べました。

そのうえで、与野党双方から所得制限の撤廃に加え18歳までの支給対象の拡大などを求める声が出ていることを踏まえ、政府として内容の具体化を進める考えを改めて示しました。

一方、西村経済産業大臣は「限られた財源の中で、所得のある人に配るより、より厳しい状況にある人に上乗せするなどの支援をすべきだ」と述べ、所得制限の撤廃に否定的な考えを示しました。

また岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正するということになると、家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題なので、社会全体の雰囲気のありようにしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを重ねて示しました。

#同性婚#夫婦別姓
2023年2月1日注目記事

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/95231.html

ここにも「理想と現実の乖離」がうかがえます。
このことから日本人は「古い考えを捨てられない」とうよりも「古い考えを捨てたくない」といったほうが妥当なのではないでしょうか。

IT化の遅れもしかり、こうした体質が日本のあらゆるところに残っていて、他国からどんどん置き去りにされてしまっていくのでしょう。

古人類は、そういった意味においても進化を遅らす手枷足枷になっているように感じています。
神様、若者たちに力を‼

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